物質科学専門部会報告書

要 約

 わが国は、科学及び技術の知識を土台に、「知識ベース」の豊かな社会を構築しようとしている。このために必要な、市民の物質科学リテラシーの一つの体系を取り纏めた。次の4点を主要な視点としている。

1)物質はエネルギーの授受により様々に変化をする。そのため物質はエネルギー利用のための舞台となる。地球規模での物質循環への理解が、地球環境の持続に重要である。

2)物質の根源はわずか100種類ばかりの元素である。原子の細部から宇宙に至るまでに物質構造には様々な階層があり、またそれらを束ねる相互作用(力)も同様に階層的である。

3)物質に人の利用意図が反映されるとき材料と呼ぶ。材料として重要なのは物質の性質であり、その性質がより優れていることである。優れた材料とは、その性質が利用目的に合致し、かつ地球環境の持続可能性を損なわない材料である。希少資源の利用に当たっては材料の再利用が重要である。

4)物質は他の物質からエネルギーの授受を行うだけでなく、「場」と相互作用する。

 本報告書は7つの章からなる。第1章では文明の発達の歴史的視点から、物質とエネルギーおよびエネルギー変換への配慮が地球環境の持続的発展に重要であることを述べる。第2章では、自然界の法則を、物質の構成、物質の変化とエネルギーに関連して述べる。第3章では、第2章の内容を基礎科学の立場からより体系的に論じた。物質の始まりから、核子から原子、分子、高分子、結晶に至る構造階層性、原子およびそれぞれの特徴的な構造を保持する結合エネルギーの階層性、物質の機能(物性)及び変化の原理を概観する。この章は本報告書の中核となる。第4章では物質科学の知見が、我々の生活の中でどのように役立っているかについて具体的に説明する。特に生命、情報社会、未来の材料、材料プロセス、地球環境について、物質科学の立場から述べる。第5章では、現代社会の中で重要な課題であるエネルギーと資源について、物質科学の見方を紹介する。これらが、市民生活における選択と政策決定に役立つことを期待したい。第6章では(物質)科学を推進する思考とプロセスを簡単にまとめた。その中では科学的思考とは何か、測定、客観性、公開性、相互批判の重要性などについて述べる。 現代の市民生活の中でしばしば目にする重要な問題である、科学を装った「似非科学」、「国際単位系」、「純物質(化学物質)と混合物」、また特殊な人間と見られがちな「科学者とはどんな人」、石油から「石油化学工業製品」ができるまで、生命物質の中で重要な役割を果たす「鏡像異性体」について、「環境と安全」、人間の「五感の科学」などについて、コラム欄を設けて述べる。