人間科学・社会科学専門部会報告書

要 約

 この報告書は3章から成る。第1章「科学の本質、科学を学ぶ意義」は、メタ・サイエンス的な内容を扱い、その点で本プロジェクトの全体に関わる。ここでは科学論、科学哲学、科学史、科学社会学、科学教育について述べ、「科学とは」「技術とは」という、さらに前段階の設問については、冒頭の節でごく簡単にふれるにとどめたが、読者は、この章を通じて、「科学する」という根源的な問題を考える機会を得ることができるにちがいない。

 第2章「人間(ヒト)の科学」では、人間(ヒト)を人類進化、心理学、言語科学の視点から論じる。ここでは、ロング・ショットで捉えた人間、つまり生物的存在から、ズーム・アップしてその心性を明らかにし、さらに人間を人間らしくしてきた言語の問題に焦点を当てた。人類存亡の危機に直面する現代にあって、人間が動物界に占める位置、進化の過程で失った能力やそれと引き換えに獲得した能力など、人間の可能性と限界の両面を正しく見据える智がとりわけ重要になってくるであろう。

 第3章「人間社会」では、社会科学諸分野の視点と方法を紹介する。自然科学の中でも先進の学問分野である数学の場合など、この先100年、200年を経たのちもその内容が大きく変わることはなかろうが、それに比べると社会科学の場合、状況ははるかに流動的であり、その対象となる社会的事象については価値観がその見方を大きく左右することもしばしば起きる。したがって、分野や立場によっては、科学への志向がかならずしも強くないこともありうる。この章では、その中で科学的実証の試みが可能な分野や課題を取り上げて解説する。自然科学諸分野が技術のさまざまな課題の解決に貢献してきたのに比べると、人間科学、社会科学の場合、技術進展との関わりが概して乏しかった。しかし、20世紀後半になると、いくつかの深刻な社会的問題が生じ、その解決のために人間科学や社会科学の成果にもとづく現状評価や具体的方策が強く要請されるようになった。また、人類史上、前例のないほど変化が加速されている現在、この時代を人類の将来へと繋げるためには、個人としても集団としても新たな「準拠系」を構築しなければならない。日本人が人間科学や社会科学の智を身に付けることは、その意味でもきわめて重要である。